デング熱は都市部で拡大する

3)デング熱は都市部で拡大する

 デング熱はヤブカに媒介される感染症で、アジアや中南米の国々を中心に流行しています(図3)。この媒介蚊であるヤブカは都市部に多く生息することから、都市の居住者が感染しやすいとともに、経済発展で都市化が進むと流行が拡大する傾向が見られています。本項ではデング熱の流行が拡大する経緯について解説します。

Areas with Risk of Dengue | Dengue | CDC

東南アジアから中南米に

 デング熱は18世紀頃からアジアや中南米で拡大しました。それ以前にも患者は発生していたと考えられていますが、あまり患者数は多くなかったようです。
 デング熱が世界流行を加速させたのは第二次大戦の頃からです。この時期はアジアや南太平洋で戦闘が行われていましたが、それに伴ってデング熱の流行も拡大していきました。日本国内でも1942年から西日本を中心に流行が起こり、終戦までに20万人以上の患者が発生しました。tpc244-j.html
 この戦争中の流行拡大は、戦地を移動する兵士の中に患者がいたことが原因でした。さらに、戦争中は陣地の構築や爆弾の投下などで水たまりが出来やすく、蚊の発生も多かったためと考えられます。
 こうしてアジアから中南米に拡大したデング熱は、戦後の経済復興の中でさらに患者数が増えていきました。

デングという病名の由来

 デング熱がウイルスによって起こることが明らかになったのは20世紀になってからですが、他の熱病と区別され始めたのは冒頭にも述べたように18世紀頃でした。これはデング熱にかかると強い骨痛や関節痛を生じるという特徴があったからです。この痛みが生じるため、患者はそれを避けるように、ゆっくりと歩き、その姿が格好をつけているように見えたため、スペイン語でdenguero(しゃれ男)という病名が付いたそうです。英語にするとdandyで、これが現在のdengue fever(デング熱)の語源とされています。
 現代でもデングウイルスに感染すると、1週間以内に発熱や発疹がみられ、ここで強い骨や関節の痛みが生じます。多くの患者はこうした症状が約1週間続いて改善しますが、約5%の患者が出血症状(鼻血、消化管出血など)やショック症状を起こして重症化します。この時点で点滴や輸血など適切な治療を受ければ回復しますが、治療が遅れると死亡することもあります。こうした重症化は、再感染した場合に起きやすいとされています。

2014年の国内流行

 現在、日本にデング熱は土着していませんが、2010年頃から毎年200~400人の輸入患者が報告されており、感染した国は東南アジアが大多数を占めています。デング熱を媒介するヤブカは、東南アジアの都市部やリゾートに多く、そこを訪れる日本からの渡航者が感染します。
 14年の夏から秋にはこうした輸入事例を起点に、東京の代々木公園などで100人を超える国内感染例が発生しました。日本国内にもヤブカの一種であるヒトスジシマカが本州より南に生息しており、これが感染を媒介したのです。
 日本国内では蚊に媒介される感染症がほとんど撲滅されており、当時はそれを駆除する対策があまり行われていませんでした。このため、蚊の数が増えていた可能性があります。これに加えて、近年、流行地域から帰国する渡航者や、入国する外国人が増えており、それが国内流行の原因になりました。

都市環境は媒介蚊が増えやすい

 マラリアを媒介するハマダラカの幼虫は清流の中でしか育たないため、アジアなどの都市部での流行は稀です。その一方でヤブカの幼虫は汚水の中でも育つことがきるだけでなく、植木鉢の受け皿や放置タイヤの中など小さな水たまりで増殖しやすく、こうした環境の多いアジアや中南米の都市部で流行が広がります。
 とくに都市が発展して工事が盛んに行われるようになると、水たまりの数が増えてヤブカが増えてきます。さらに、地方から労働者が職を求めて都市に集まってくると、その中にデング熱の患者が一定数いるため、その患者から流行が拡大するのです。このため、デング熱のアウトブレイクは、都市の中でも工事現場の周辺でおこりやすいとされています(図4)。
 さらに流行地域に滞在する日本からの渡航者の感染はゴルフ場でも起こります。アジアの都市近郊には数多くのゴルフコースがあり、水場も多く、蚊の生息にはもってこいの場所です。しかも、ゴルフアーは半袖のシャツに半ズボンとかなり軽装でプレーをするため、蚊に刺されやすいのです。

媒介蚊は昼間に吸血する

 デング熱の予防には、媒介するヤブカに刺されないことが最も効果的な方法です。この蚊の吸血時間が、夜ではなく昼間であることをご存じでしょうか。蚊は夜に刺す昆虫と言うイメージが強くありますが、それは日本脳炎を媒介するイエカやマラリアを媒介するハマダラカの習性で、ヤブカの吸血時間は昼間です。
 また、ヤブカはその名前からも分かるように、家の中だけではなく屋外にも生息しています。このため、デング熱の予防のためには、屋内だけでなく屋外で蚊に刺されないようにする必要もあります。これには、デイートやイカリジンを含有する昆虫忌避剤(虫除け薬)を皮膚に塗って、蚊が皮膚に近づかないようにすることが最も効果的な対策です。昆虫忌避剤は日本でも多くの製剤が販売されており、デング熱の媒介蚊にも有効です。流行地域に渡航する人は是非、携帯するようしましょう。

 なお、最近、日本の武田薬品がデング熱のワクチンを開発しており、一定の予防効果が確認されています。残念ながら日本では未承認ですが、アジア、中南米などの流行地域やヨーロッパでは既に販売されています。こうしたワクチンが用いられることで、今後、デング熱の流行が世界的に収束に向かうことが期待されています。