性風俗の変化がもたらすもの
性風俗の変化がもたらすもの~性感染症の新たな拡大
近年の性風俗の多様化により、性行為感染症の新たな流行が拡大しています。男性間性的接触者(MSM)を中心に拡大しているアメーバ赤痢やエムポックスなどは、その代表的な感染症と言えます。さらに、古典的な性感染症である梅毒についても、性風俗の業態変化にともない、その数がここ数年急増しています。本項では、最近の性風俗の変化による性病の現状について紹介します。
日本のLGBTは1割近く
近年は性のあり方を男性、女性と限定するのではなく、様々な形が容認されてきており、LGBTという言葉がしばしが用いられるようになりました。これにはLesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(出生時に割り当てられた性別とは異なる性別で生きる人)が該当します。こうしたLGBTの人々が、日本では人口の3~10%に及ぶとの調査結果もあります。
このLGBTの中でも、Lesbian、Gay、Bisexualは性指向に関する言葉になりますが、従来の男女間の性行為とは異なる行動をとるため、その集団の中で性行為による感染症の流行が起きることがあり、とくに男性間性的接触者(MSM)の間で拡大が顕著なようです。
MSMでの経口感染症の拡大
1980年代にHIV感染症(エイズ)が世界的に拡大した時も、最初はMSMを中心に流行がみられました。最近でも日本では、HIV感染と診断された者の5割以上はMSMになっています。r06gaiyo.pdf
さらに、MSMの間では赤痢アメーバ症やA型肝炎といった経口感染症の流行も起こります。赤痢アメーバ症は腸管に寄生する原虫でおこる感染症で、日本でも年間500~1000人の患者が報告されています。糞便中に病原体が排出されるため、以前は発展途上国など衛生状態の悪い国で、飲食物から感染する事例が大多数でしたが、2000年以降は輸入事例が1~2割で、残りの8割は国内感染例になっています。その多くがMSMの感染で、口と肛門の接触を伴う性行為(oral-anal sexual contact)による伝搬がメインになっています。赤痢アメーバについて|赤痢アメーバリファレンス
同様な感染経路により、18年には東京などで、MSMの集団を中心にA型肝炎の患者が多発しました。A型肝炎の原因となるウイルスも患者の糞便中に排泄されるため、それに汚染された飲食物から感染するのが一般的ですが、MSMの間ではoral-anal sexual contactでも感染拡大が起きるのです。
エムポックスの流行も
22年から世界的流行を起こしているエムポックスも、MSMを中心に広がっています。この感染症は以前まで「サル痘」と呼ばれていたウイルス疾患で、皮膚に発疹や潰瘍などの病変を起こし、その部分にウイルスが排泄されます。元々はアフリカのげっ歯類などの間で流行しており、ヒトが感染動物に接触して偶発的に感染することもありました。原因となるウイルスは天然痘ウイルスに近縁のもので、1型(コンゴ型)と2型(西アフリカ型)の2種類があり、前者の方が重症になりやすいとされています。
このようにアフリカの風土病だったエムポックスですが、22年5月頃から、欧米諸国でアフリカに渡航歴のない患者が多発しました。その多くはMSMで、患者との性行為などで感染したと考えられています。この時は2型の流行でしたが、23年からは1型も世界流行を起こしています。
その後、患者は世界各地で発生し、26年初頭までに17万人以上にのぼり、日本でも同年3月までに293人の患者が報告されています(図6)。患者の多くはMSM間の感染ですが、女性の患者も発生していることから、男女間の性行為や家庭内での濃厚接触による感染も起きているようです。
エムポックスがヒトに感染するようになった原因は、ウイルスの変異なども考えられますが、それが世界流行した一因としては、MSMの増加など最近の性風俗の多様化が影響しているようです。

梅毒患者増加の原因は
性行為で感染する病気として、日本では2010年代から梅毒の患者が増加しています。この数がコロナ禍になる2020年代からさらに増加し、24年には1万4000人の患者が確認されました(図7)。これは10年前に比べて8倍以上の数です。性別は男性6割、女性4割で、年齢は男性が20~50代と広い範囲に分布していますが、女性は20代が大多数です。
このように日本で梅毒患者数が急増している原因としては、近年のSNSの普及で男女間の出会いの機会が増えたという見方もありますが、男性患者の約4割が性風俗業の利用者で、女性患者は3~4割がその従業員でした。このように、最近の梅毒患者の増加には、性風俗業を介する要因が大きいようです。
では、なぜコロナ禍となる2020年代から患者数が目立って増えてきたのでしょうか。コロナの流行対策が厳しく行われていた時期に、性風俗業は店舗の一時閉鎖を余儀なくされました。この経済的損失を補うために、この業界では出張型への転換が進み、コロナ流行後も同様の営業形態が続いていることが一因ではないかと考えます。出張型の場合、店舗型に比べて性病予防がルーズになりやすいようです。
もう一つ、梅毒患者増加に関与している可能性があるのが、経口避妊薬(ピル)の普及です。今まで日本では、避妊の方法としてコンドームの使用率が高い一方で、ピルの使用率が低い傾向にありました。しかし、オンライン診療が普及したことなどで、ここ数年はピルの使用者が増え、その影響でコンドームの使用減少が起きつつあります。コンドームには避妊だけでなく、性病を予防する効果もあるため、使用が少なくなると梅毒を増加させる可能性があるのです。

性病の動向はその時代の性風俗を反映しています。この患者数が増加傾向にある時は、性風俗の変化に応じた予防対策を進めていくことが大切です。
